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第124話 意識したら負けです

Auteur: 八月 猫
last update Date de publication: 2026-09-20 09:00:27

 翌朝。

「小春、この資料を見てくれ」

「はい」

 帝人さんに呼ばれて執務室へ入った。

 それだけ。

 いつもと何も変わらない。

 机の上には資料が積まれていて、帝人さんはいつものスーツ姿で、いつものように仕事をしている。

 なのに。

『帝人さんの中にある私の場所を、失いたくない』

 昨日、自分で考えてしまったことが頭から離れない。

「小春?」

「はい!」

 声が少し大きくなった。

 帝人さんが眉を寄せる。

「どうした」

「なんでもありません」

「昨日からそれが多いな」

「気のせいです」

「気のせいではない」

 私は慌てて資料へ視線を落とした。

「それより、これですよね?」

「ああ。来期の新規採用計画だ」

 助かった。

 仕事なら大丈夫。

 数字を見

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     東都アセットとの案件がひと区切りついた翌日。 珍しく、午後六時を少し過ぎたところで帝人さんの予定がすべて終わった。 追加の打ち合わせもない。 急ぎの決裁もない。 榊原さんから回ってきた確認事項も、今日はもう片づいている。「……終わりましたね」 私は予定表を見直した。「何がだ」「今日の仕事です。帝人さん、もう帰れますよ」 帝人さんがパソコンから顔を上げる。「まだ六時だぞ。以前なら、この時間からでも一件くらい予定を入れていた」「それをやめてもらうために、私と榊原さんがどれだけ苦労したと思ってるんですか」「分かっている。だから今日は入れていないだろう」「自分で言うと台無しですよ」 以前なら、ここから何か仕事を探し始めたかもしれない。 でも最近は、必要のない仕事までわざわざ増やすことは減った。 会議を減らしたこともそうだし、榊原さんや他の担当者へ任せる範囲も少しずつ広がっている。 その変化を本人がどこまで自覚しているかは分からないけれど。「では、今日はここまでにしましょう。明日の最初は九時半からです」「分かった。小春も帰る準備をしろ」「言われなくてもします」 私は自分の机へ戻り、片づけを始めた。 その時。「小春」「はい?」「夕食に行かないか。今日はこのまま帰るより、少し外で食べてから帰りたい」 いつもの帝人さんなら「夕食に行くぞ」で終わりそうなところを、今日は珍しくちゃんと理由までついてきた。「……それ、予定に入ってました?」「入っていない。今決めた」「ですよね」「嫌なら断っていい。ただ、昨日まで東都の件でずっと仕事の話ばかりだったから、今日は別の話をしたいと思った」 そう言われると、余計に断りづらい。 嫌ではない。 むしろ。 最近

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